野菜生活で充実やさかい

雨風の強い日 

ぬかるむ未整地グラウンド

足元にいらつきを覚える

曲がり角のCDショップ

部活が休みになるとかけこんだ

適当な品ぞろえに放漫なポスター配置

豊満で無愛想なおばちゃん

なのでいつもお客はいなかった

わたしは「くるり」を目まぐるしくリピートしていた

くるりしか見えていないようだった

ドットの升目をかぞえるように、ときには風と自転車に乗り霜焼けの手で耳を覆うように

日々を追いながらゆっくりと聴き倒していった

しかし愛聴したとはいえ小金で生きていたのだからもっぱらレンタルなわけだ

新譜など月に1枚あればそれだけで興奮していた

おばちゃんを横目に気になるCDを舐めまわすように見て気を紛らし

埃をかぶった「ファンデリア」を半透明になったビニールハウスから早く脱却させようと思っていたんだ

面倒な客だったに違いない

当時の音源は邦楽ばかりの一辺倒なものだから、洋楽の知識はゼロに等しく

私にとって未知なる世界だった

ある日、ファンデリアの様子を伺いに行くとその棚はなぜかI行になっていた

しかし文字プレートのみが移動されていただけで、I行がク行でク行がI行なのだ

この店内の混沌とした状態だけでなく、おばちゃんの厭らしい紫のスカートにも頭が痛くなったわたしは、逃げるようにその場を立ち去った

その帰り道、ふと友人が話した洋楽の話を思い出し、I行のCDでもレンタルしてみようと思いたち、いくつか借りて帰った

そのなかにはアイアンメイデンがあった

私は英語が苦手でアイアンが読めず、てっきりアイロンメイデンかと勘違いをしていた

帰宅後、その想像しがたい音楽性にわずかな期待を寄せてプレーヤーのスイッチを押した

その刹那、流れ出した音はというと

アイロンスチームで私を蒸し殺さんと暴れまくっていた

少しばかり動けなくなったが、それでもイヤホンを抜き取ることはできた

その恐怖と湿気は相当な衝撃だったに違いない

メイデンを味わったそれからの私は

幅狭い音楽観に嫌気がさしレンタル中毒へと陥るのでした




あのファンデリアは今でも破かれていないままなのだろうか……

アイロンがけをしている母の背中を見て、ふとそんなことを思い出した